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Vol.1

創立50周年を迎えて

株式会社エリオニクス 上席顧問 - 堀田 昌直

エリオニクス創設

1974年12月、創立時の社長、副社長と私の3名で荷電粒子の工業利用を目指す本物の装置製作集団を創りたいという意思確認の基、翌年3月4日上記3名に電気設計のエキスパート1名、それに監査役、社外取締役が参集して株式会社エリオニクスの設立総会を開いた。直後に走査電子顕微鏡の物理設計、機械設計、システム設計のエキスパート3名が加わって7名となり、ほどなく若手の営業員も加わって実質的には8名の部隊で本格的に始動した。最初の仕事は、ある客先装置の真空度向上のための排気系追加工事で、3月に受注して5月連休明けに納入した。納品検収第1号である。引き続き受注したイオンシャワー加工処置と電子線照射系の設計・製図(当時は鉛筆による手書き)を直ぐに開始し、加工と組立配線は外部に委託したが組立調整は自分達で行い、前者はその年の10月に、後者は翌年早々に納入した。納入して検収を受けない限り自分達の給料も無い訳で皆必死であった。また、自社商品が無ければ営業活動もできないということで、上記と並行して小型走査電子顕微鏡の開発も行い1年後に完成させた。産業界では半導体の研究開発に多額の資金が投入され始めたこともあり、顧客と話し合いながら要求に応じた装置を次々に新規開発する状態が続き、今では許されないが残業徹夜を繰り返し、装置の横に図面を開いて不具合点の洗い出しに格闘する日々を送っていた。しかしながらすべてがうまく進んだわけではなく、100 kV加速イオンビーム装置では80 kVまでしか印加できず、仕様の80 %だから価格も80 %でという話で落着したり、客先の製品製造に使用する電子ビーム装置を納入したが、時折発生する放電が製造中の製品にムラを生じさせることが判明し、頭を下げて引き揚げさせてもらったりとお客様に迷惑をお掛けしたこともあった。いずれもお詫びして了解をいただき、落ち込む暇もなく次の仕事に取り掛かるしかなかった。

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製品の差別化と事業拡大

創立直後に入社した若手の営業員は小型走査電子顕微鏡のカタログを抱え、まだそれほど名前も知られていない会社の名刺を手に粘り強く潜在顧客の要望を聞いて回り、依頼試料を自ら処理してさらにポイントを絞り込み、走査電子顕微鏡を顧客が製造している溶剤(レジスト)の感光特性を評価するレジスト評価装置へと発展させ、最終的には電子線描画装置へと機能向上させて販路と販売額を拡大した。そんな中で工場の拡張も着々と行い、創業8年後には八王子に自前の本社工場を建設した。660平方メートルのコンパクトなものであったが、装置製造会社として総務、営業、資材、開発、生産に必要なスペースを確保した。

創業10年後に他社製品と差別化することを目的として走査電子顕微鏡に複数の二次電子検出器を取付け、その信号を演算処理することで顕微鏡画像を立体画像に変換し、水平方向だけではなく高さ方向の寸法も読み取れるナノレベル三次元構造解析装置として売り出したところ、CD(コンパクトディスク)業界の立ち上がりの時期と重なり音質向上を目的とするCD表面のピット形状の評価用として多数採用いただいた。三次元構造解析装置と電子線描画装置と上述した仕事の間を縫って開発した小型イオンシャワー装置が主な自社商品として認知されてきて一息つけるレベルまで到達した。ただしこれで安心はできず、当時一般化しつつあった電界放射型電子銃を当社装置に搭載すべく開発目標に取り上げこの開発を一人の若者に託したところ粘り強く取り組み目標を達成してくれた。この電子銃を電子線描画装置に搭載すると圧倒的に細い線を描画できることが確認できたので新聞発表を行ったところ業界から注目されるところとなり、バブル崩壊による不況の真っただ中でこの高性能電子線描画装置は当社の救世主となった。また産学連携により開発した微小硬度計もコンスタントに売り上げを伸ばし商品構成が徐々に収斂し今日に繋がっている。

エリオニクスの未来に向けて

現在の装置はコンピュータと一体化されて極めて複雑になっており、部品点数も多く装置の組み上げ調整には高度な知識と手腕が要求される。装置には尖ったところも必要だが安定性も必要で、熟練者が手順通りに組み上げれば確実に性能が出る程度まで追い込んだ設計が望まれる。両者のバランスを考えながら性能向上商品開発を続けてもらいたい。

日経ビジネス誌では起業して20年後の企業生存率は0.3%と報じられており創立するより継続することの方がはるかに困難なのである。当社の場合これまで延べ400人が在籍したが各々が担当部署で力を発揮しバトンを次の人に繋いでくれたことにより、本年の創立50周年を社員数100余名の規模で迎えることが出来た。各人の努力に依るところも大きいがそれを支えてくれたご家族の皆さま、それに何よりも当社製品を使って頂いたお客様に心から感謝申し上げたい。また陰ながら支えていただいた地域の方々にもお礼申し上げたい。

この業界は半導体の微細化を軸として成長してきたが今後はそれに加えて量子力学の産業利用という新潮流が加わり装置に要求される項目も一段と複雑になることが予想され、今の装置にてこずっているようでは将来が覚束ない。会社の未来は現在在籍しているすべての社員の手と頭脳にゆだねられているが当社の場合、技術/生産、営業、資材、総務/経理の4部門の連携が不十分では総合力を発揮することはできない。将来を見据えた企業設計図を描き、個々人の仕事力の向上に加え各部門がそれをいかに高度なレベルで連携して具体化していけるかにかかっている。要求される課題に果敢に且つひたむきに挑戦してこそお客様の信頼を勝ち得ることが出来る。ここでいう“課題”の中にはさらに大小様々な課題が袋詰めされた状態で散らばっており、すぐに取り掛かれるほど簡単ではない。各人が自分なりにそれらを分類整理して一つずつ解析し挑戦する道筋を見つけ出して攻略し、すべてを乗り越えて始めて課題達成と言える。その過程で身に着けた知識と技能は次の課題に挑戦する大きな武器となるし、そうやって這い登ることが企業の成長につながる。現実の厳しい企業間競争の世界では現状維持は負けに等しく、困難に挑戦して未来を切り開きお客様に安心して使って頂ける新時代の装置を提供出来て初めて本物の装置製作集団と言える。現状に甘えず挑戦を恐れずお客様の期待に応えられる奥深くから輝く会社であり続けて欲しい。