カテゴリー:次の50年を、私たちがつくる
Vol.2
技術者として駆け抜けた成長期
株式会社エリオニクス 元社長 - 岡林 徹行 氏
はじめに
創立50周年、おめでとうございます。私自身、創業間もない1977年に入社し、以来44年の長きにわたり技術者として、そして経営者として会社の歩みを共にしてまいりました。退職から3年8ヶ月、今もなお会社の成長を身近に感じております。こうして節目の年を皆様と共に祝えることを、大変嬉しく、また誇らしく思っております。

聡明期、ノイズとの闘いの日々
私は日本電子株式会社で電気技術者として7年間従事した後、1977年5月1日に創業3年目のエリオニクスへ入社しました。前職での経験を買われ、声をかけていただいたことがきっかけです。エリオニクスは、日本電子の同部門の上司たちが立ち上げた会社であり、技術的な志を共有する仲間との再会でもありました。入社当時、会社は八王子市千人町に移転したばかりで、社員はわずか14名ほど。電気・機械・物理の技術者が中心となった小さな技術集団でした。私が最初に取り組んだのは、創業後初の自社製品である走査電子顕微鏡(SEM)「ESM-301」の納入フォローと性能改善でした。SEMとしてはなかなか売れず、描画機能を追加して当時開発が盛んになりつつあった電子線レジストの評価装置として売り込みを開始しました。
その最初のレジスト評価装置を試薬品メーカー向けに納入しました。電子ビームでレジスト上にライン描画し電子線感度を評価するものですが、感度評価において装置内で発生する高周波ノイズが問題となり、毎日のように八王子から客先まで通い詰めました。この装置は小型・低価格のSEMとして開発されたもので、コストを極限まで抑えるため、照射系・画像系・制御系の電源がすべて共通化され、制御回路は高電圧部を除いて1枚の基板に集約されていました。これにより、装置内に潜在するスイッチングノイズが描画系に干渉し、レジストのライン描画に乱れが生じてしまったのです。
SEM像の観察には支障がなかったものの、レジスト評価では極めて高感度なノイズ測定のようなもので、微細なラインの乱れが致命的でした。電源の分離が困難な構造であったため、ハードウェア的なノイズ除去には限界がありました。最終的には、客先の了解を得て、1本のラインを高速で描画し、同じラインを複数回重ねて描くことでノイズを平均化するというソフトウェア的なアプローチに切り替えました。この方法により、ノイズの影響を抑えつつ安定した評価が可能となり、装置としての信頼性を確保することができました。この経験は、後のSEMや描画装置の設計において、電源系と制御系を物理的・電気的に分離する設計思想として活かされ、以降の製品開発における重要な指針となりました。
高加速化により迎えた第二成長期
当時は電気回路の設計だけでなく、シャーシー設計、部品調達、組立、納入まで一貫して担当していました。秋葉原の電気街を歩き回り、手に入る部品で回路を組み立てた日々は、今でも懐かしく思い出されます。会社はOEM製品や特注品を受注しながら、電子ビーム、イオン、X線を応用した自社製品の開発を進め、大学や研究機関への販売を拡大していきました。1993年、創立20周年を目前にバブル崩壊の影響で大赤字に転落しましたが、本目社長を中心に開発した「ELS-7700」がその後の第二次成長の原動力となりました。
私は当時、電気技術課長としてこの装置の電気設計を統括する立場にありました。ELS-7700は75 kVの電子線鏡筒を搭載し描画線幅10 nmを目標に掲げた挑戦的なプロジェクトでした。電気的には今後の100 kVへの更なる高加速化を見越した設計を随所に計画しましたが、100 kVの高電圧領域は当社にとって未経験であり、技術的なハードルは非常に高いものでした。そこで、前職で高電圧設計に携わっていた先輩(かつての上司)を招き、社内で数回にわたる勉強会を開催しました。高電圧ケーブルの構造、端末処理、電子銃への安定導入方法、加速管の設計など、実践的な知識を共有していただきました。この勉強会には電気・機械・物理の各分野の若手技術者が熱心に参加し、得られた知見はELS-7700の設計に大いに活かされました。印象深いのは、電子銃への高電圧印加におけるコンディショニング手法の確立です。工期短縮の業務改善プログラムの中で確立したこの技術も高電圧の勉強会の実践的な知識をもとにしたものでした。これにより高電圧印加の安定化までの時間を大幅に短縮することができ、工期短縮への道筋が一気に開けました。最初にELS-7700(75 kV)を、続いてELS-7000(100 kV)を製品化しましたが、このELS-7000シリーズは当社のフラッグシップモデルとして国内外の研究機関に導入され、エリオニクスの技術力を広く知らしめることとなりました。
元経営者として現役世代へ向けたメッセージ
2011年12月、第4代目社長に就任しました。急な引き継ぎではありましたが、会長の本目氏と意見を交わしながら、技術者としての視点を持ち続け、装置開発の現場にも積極的に参加しました。2014年には経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選定され、2019年には念願の売上高30億円を達成。電気技術課長から、社長、会長まで様々な役職を務めさせていただいたことは、私にとってかけがえのない経験であり、会社の皆様に心より感謝申し上げます。
私が一貫して大切にしてきたのは、目標に向かってひたむきに取り組む姿勢と、仲間とのコミュニケーションです。報告・連絡・相談を徹底し、信頼関係を築くことが技術者としても経営者としても不可欠だと感じています。40周年の祝賀会では「世界中の方々に『エリオニクスの装置を使って良かった!』と言われるような、最高性能の装置作り、最高の顧客サービスを提供する世界ブランドの企業を目指したい」と宣言しました。10年が経ち、今のエリオニクスはその理想に近づいているでしょうか。
会社の規模を無理に大きくする必要はありません。一歩一歩着実に成長し、社員一人ひとりがやりがいを感じ、互いに切磋琢磨しながら自己実現を果たす。そんな会社であり続けてほしいと願っています。
