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カテゴリー:見えない世界に挑み続けた、50年の対話。

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Vol.3

世界ブランドのエリオニクスを目指して!

株式会社エリオニクス 元海外営業部長 - 小関 敬之輔 氏

エリオニクスとの出会いと初の海外進出

「海外に出て行きたいんだ。手伝ってくれないか。」高校時代からの友人で、当時の本目社長から誘われ、外資系会社でマーケティングを担当していた100%文系の私が100%理系のエリオニクスのお世話になることになった。

まず、シンガポール、台湾とアジア市場での進出を果たし、手応えを感じた。いよいよ世界へ。『それならアメリカだ!中国市場も台頭してきたが、中国市場はまだ待てる。中国はアメリカを見ている。アメリカで成功すれば、中国はついてくる。まだ企業規模が小さいエリオニクスの資源は集中すべきだ、分散すべきではない。』と判断し、アメリカ進出へ向けて準備を始めた。

トップダウンでアメリカ進出

アメリカ市場に進出するには、比較的困難度の低いお客様から徐々に基盤を広げていく方法もあったが、「いや、違う、思い切ってトップを攻めよう!トップダウンだ!目指すはハーバード大学だ!ハーバード大学に納入すれば必ず追い風が吹く!」と心に決めた。調べているとハーバード大学が新しい電子線描画装置を探しているとの情報を入手した。しかも競合他社もプレゼンは終わり、選考過程は最終段階であると伝えられた。何とかお願いし、途中から飛び込み参加をさせていただいた。

プレゼン初日の厳しさは忘れられない。まるで「Who are you? エリオニクスって誰だ?」と言わんばかりの態度である。アメリカでは無名である。「地球の裏側にいて、どうやってタイムリーなメンテナンスを行えるのか?」考えてみればもっともである。私は失礼な質問に対する怒りをグッと抑えた。天下のハーバード大学がまだ信頼度が疑わしいエリオニクスの装置を購入して失敗したら、彼らは築いてきた名声や立場を失ってしまうのである。アメリカにメンテナンス要員を含む組織を持ち、納入実績のある競合他社の方が安心して選択できる。競合の内一社はハーバード大学からわずか30分の所に拠点を持っている。

ウワサが流れてきた。「ある一社に95%決まっている。」同社の営業責任者がもらしたそうだ。でも、よしんばこれが事実としても、まだ95%だ。100%ではない。5%の可能性がある!私はエリオニクスの装置を心から信頼していた。信じていた。

とにかくハーバード大学の信頼を早急に創り上げることが急務だ。帰国後本目社長に、全社的にハーバード大学への対応を最優先にしてもらうようお願いした。ハーバード大学から技術的な質問がきたら、たとえ他の作業をしていたとしても、ハーバード大学の要求に即応えていただきたいと。この全社的協力態勢は実に効果的であった。教授や担当者が疑問点や質問をメールで送るのは、その日の仕事が終わってからが多い。時差の関係でその時間は日本では朝である。エリオニクスの回答は教授や担当者がまだ研究室にいる時に届くことが多い。アメリカにある競合他社のオフィスは既に閉まっていて、彼らがハーバード大学からの質問を見るのは翌日になる。時差を有利に利用した。最初のプレゼンで指摘された「地球の裏側にいる」というピンチを、「素早い対応ができる」というチャンスに変えたのである。ハーバード大学の心配は急速に薄れていき、信頼が芽生えた。

ハーバード大学 マーカス教授の決断

ハーバード大学の総責任者のマーカス教授は、アメリカはもちろん世界的に有名で絶大な信頼を得ている偉大な学者だ。マーカス教授こそエリオニクスを世界ブランドへ導いてくれるキーパーソンになると確信し、誠意を尽くして対応した。エリオニクスの描画装置は世界一と信じていたので、実際に見てもらえれば勝てると思った。そしてついに、装置を見るためにマーカス教授を日本にお呼びすることに成功した。この時、私はマーカス教授の信頼を得たと確信した。

マーカス教授はエリオニクスには来なかった。エリオニクスと競合他社の両方の描画装置が納入されている施設を訪問し、ユーザーの評価を直接聞きに行ったのである。この行為で教授に対する私の信頼は更に高まった。マーケティングに従事してきた私は、「価値とは、お客様が感じ認識する価値であり、決してメーカーが思う価値ではない。お客様が対価を払おうと決心する価値こそが本当の価値である」と信じている。どうしたらエリオニクスこそがハーバード大学にとって最高の価値であると納得してくれるか、私は常にこのことを胸にマーカス教授に会っていた。教授は訪問先で研究者に直接聞いたそうだ。「どっちの描画装置が好きか?」。答えは「ELS(エリオニクス社製)」だった。

最終的にマーカス教授が選択したのは「エリオニクス」だった。わずか5%の可能性が100%になったのである。諦めずに挑戦し続けたからこそ道が開けた。新参者の逆転勝利だ。私は何物にも代えがたい喜びに浸った。

その後、ハーバード大学からMIT、プリンストン大学と顧客を拡大していった。常に有力大学、トップから攻めるという我々の戦略は成功した。アメリカ市場での納入先リストがそれを物語る。

海外進出成功のカギ

ある日ハーバード大学で作業をしているとマーカス教授から研究室に呼ばれた。研究室には教授と私の二人だけである。「ケン(私はKenと呼ばれていた)、大事な話がある。これはまだ学長と数人しか知らないことだが、ケンには話すよ。」マーカス教授はデンマーク政府からコペンハーゲン大学でナノテク研究を主導して欲しいと招かれたのだ。「まだ決断していないが、多分決めるよ。」こんな大事な話を、私を信頼して話してくれた。私は感激した。

マーカス教授はコペンハーゲン大学に移るやいなや当時のエリオニクス最高機種ELS-7000を購入してくれた。エリオニクスのヨーロッパ市場第一号機である。理想的なヨーロッパ市場突破口だ。アメリカからヨーロッパへ、エリオニクスのヨーロッパ市場作戦はこうして始まった。

このように成功を重ねてこられたのは、エリオニクスの描画装置の性能、装置の納入・設置・メンテナンス作業の質とスピード、代理店のSEMtech Solutions、全てが世界に誇れるレベルであったこと。そして若松、數原両氏と理想的な営業チームを組めたから実現できたことである。エリオニクスの社員として、このような経験をさせていただいたことは、私の喜び、誇り、そして宝物です。